2010年 別れ
応えをさがす
何もかも心のひだに押し込めぬ 行き違い雲は雨を運び来

静やかに一枚一枚落ち葉して西の空へとときを逝かしむ

抱き留めて欲しき時間に秒針の刻むリズムは鼓動と聞こゆ

頬伝うなみだ幾筋そのままに問答雲に応えをさがす

天窓にたしかな光たどり来て ここより永遠のひかりとなりぬ

さびしきに心を寄せて歌を詠む人の心に光は差しぬ

ここに在り
「覚悟」など口にせぬまま秋は去り冬はそこここ春見えずして

遺(のこ)りたるメールに見える喜怒楽を今は哀しく読み返しおり

ご子息の贈りくれたるパソコンにメール楽しと亡き師言いし日

お疲れを口には出さぬ歌の師の本音を語るメール遺(おく)られ

とりとめもなきまま詠う悼み歌 せつざん咲きぬただただなりに
(*雪山=せつざんという山茶花の種類)

振り返る道には足跡一歩二歩 せなを押されて吾はここに在り

溶  暗
こっつんと忘れどんぐり落つる午後 トトロの森にまよいいる夕

祈りいる声は日暮れに溶暗すフューネラルマーチのちひそやかに夜

冬の夜に幽か灯りと見つめれば茉莉花の花しろく香りぬ

香りにも色あるならばその胸に薄桃色に添いたきものを

心寄せ思い重ぬるしばらくに薄むらさきのあかときの空

いかほどの雪が降るとも染まらずの色を保ちて笑む雪ノ下(ベルゲニア)

帰 去 来
言の葉の散れば心も散るものと寂しさ語ることなく去らん

わが胸に「気づき」は鎮かにおさめたり 「おさらばえ〜」と物語閉ず

葬送は心に空洞作るらし 去りゆく者は追わず語らず

コンコンとノックの音をやり過ごす いつもの椅子に座りし午後も

棄てられし思いのあまたポケットに拾いて歩むことにも疲れ

帰りたき処もいまは見つからず山の端にゆく夕陽に泣きぬ

思いても
思いてもまた思いても足らざると言いし桜よ花の嵐よ


花びらをいだきし風のやさしさにつぶやくように歌を詠わん


咲く花も散りゆく花も美しく四月の風に物語りする


咲く花を見上げ散りゆく花を追う「ゴールは今も見えないままね」


卯月ゆく風のタクトに花びらはふわりアダージョ・カンタービレに


ちさき手にさくら花びら握られて「空へ」と命授けられおり


散りぬるをさくらさくらと舞う花に子らも踊りぬ右に上にと


つかの間に逝く花びらのはかなさを嘆くは明日を信じぬ大人


ニュース

「元凶は女性ホルモン低下です」 肘は傷みて胸も痛みぬ

再開の産科に産声上がるとうニュース伝わる 雲おどる朝

「何を塗りつぶしたかったんだろう?」『大公の聖母』の黒き背景

ラファエロの「大公の聖母」背景の黒きのうちに隠された意図

隠されし背景たずぬるニュース聞く 洗濯物を裏にして干す

その場所は個は個のままにあるらしき人の情(こころ)は伝えぬニュース


千の祈り


母たちの祈りを結ぶ折り鶴よ球児とともに夏にはばたけ

夏大(なつたい)のベンチを護る神となれ祈りをつむぐ千の折り鶴
※夏大(なつたい)は、夏の全国高校野球選手権大会の略

我が野球人生かけて闘うと宣言したる球児の美(は)しき

共感と攻気(こうき)をテーマに球児立つ日焼けの顔に白き歯笑(え)まう

高らかに校歌響きて本日も充実のうちに練習閉じぬ

白球の金属音に一打追いまた追うごとに球児は夏へ

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