1995年

1月号  「君は流れる」 作品U集 高点歌

ハラハラもドキドキもない我が娘ゆえすこし酸っぱい我のてのひら

いくつかの心残りを添えて逝くニニロッソ様安らかにあれ

哀愁のトランペッターニニロッソ恒久の命夜空に残す

TRUE-LOVE季節を越えて変わらない愛の深さは許容量だよ

波頭白くくずれて散るごとく静かに静かに君は流れる

泣かないで約束したよ最期まで人生飾るあなたでいると




2月号

死の間際いつかあなたが来るときもわたしは若いままと笑む君

黄泉で待つ生きた証をお土産にゆっくりおいでと君言い置きて

冷静に近づく死さえ受けとめて一人一人に別れ告ぐ君

臨終に死など怖くはないけれど子らが不憫と君の涙は

君は逝く闘いぬいて穏やかにたまゆらの悔い我のみぞ知る

振りむけば君の強さの半分も我には見えぬ母としてさえ

寂しみて苦しみている今でさえ歌詠みている我何ゆえに




3月号

淋しさは君も私も同じこと飛行機雲などながめてみよう

本当に大事な人は一生に片手ほどとう君の遺影は

この風がたとえば雨が日だまりが君の匂いを運び来るらし

朝明けにかすかなる影我に来て涙ひとすじ耳に伝うも

夢に来し君のとの時間かすかなり我日常に追われて生きる

人生の険しきを言う我に向き走れぬ時は歩けと夫は




4月号

明け遅き今朝の窓辺に見ゆる雨亡君(きみ)と過ごした夢の断片

壁にいるマリオネットのピエロにも心あるらし我を励ます

歌とはと誇らしく説く父の瞳に険しきものと優しきものと

この道に終わりはなきと説く父の短歌人生四十余年

歌の道一歩一歩を我もゆくゆるやかなれど前を見すえて

父の背が確かに見ゆる距離までを今日も歩まん我が歌の道



5月号


大震災声震わせて耐ーうる人今日という日を悪者にして

リピートで何ができると問いかける瞳に焼きついた阪神の惨

百倍も澄んでる瞳若人に奉仕の心は復興目指す


春の風主役うばわれそよと吹く千波の湖に梅の香降る日

片仮名で書いてみるわねサヨナラとこれで悲しくないかと言って

かすれゆく交換日記の背表紙の君の名前に少し泣けた日




6月号

春あらし明けて瞳に広がれりブルースカイと呼びたき空の

新しき太陽が春に生まれると信じる子らの心まぶしも

ひよことう名で一年を過ごし終え吾娘さわやかに年中はな組

春彼岸遺児ら静かに手を合わす妣に誓いて立派に生きん

君は今我らに何を語りたき花に包まれ香に包まれ

何故かしら思い通りに飛べない日恨んでやるわ今日の運勢




7月号

生き方はスタンダードでいいじやない自分だけだと信じていれば

スマップもドリカムさえも鼻唄で吸収できる明るい四月

弱いから嘘つくんだよ人間はそんな言葉でごまかすな恋

悲しげにあの頃なんて語らずにもう一度君とときめいて春

一瞬の思いもかけぬ君の笑み心の分だけゆれる前髪

誰のためピンクのルージュ煌めかす陽気な風を味方につけて




8月号

消えていく特別天然記念物響き空しきニッポニアニッポン

教え子もオウムを信じ生きていく変わる日本どう愛そうか

葱の花茗荷の若芽豆の花何があろうと変わらぬ季節

お団子よ手渡す顔の泥まみれそれさえもただ愛しき幼

何もかも元気印と胸をはり絆創膏の膝をさす吾息

お守りと病の我に差し出す絵二人児の手と笑顔抱きしむ




9月号

口げんか気弱なくせに燃えたちて魔法がとけてジタバタしてる

お母さん呼ばれる声に振り向けばマーガレットの花束と吾息

暗き梅雨せめて明るく照らそうと紫陽花の名ががんばっている

あなただけ私を見つめて欲しいのよ黒南風の町紫陽花の声

長き道乗り継ぎながらたどりつく君への想い胸ふさがるも

君を恋うゆるがぬ事実軋む胸そちらも雨が降っていますか




10月号

今割れし器は二度と輝かぬ信頼という硝子なりしが

幾年も積み上げてきた信頼をシュレッダーするこれでいい。否。

言葉にも声にもされず沈みゆく感情がまた所在なくいる

言い過ぎて受話器置く手にためらいの澱み澱みて閉ざされる空

破れない殻に包まれもがきいるなんと小さき人間われは

ひまわりが深き空にはよく似合うためらい持たず我も生きたし




11月号

お母さんお帰りなさいと声にして迎え火重ね心安らぐ

夕立の後の危うき虹のごと行き先さえも見えぬ歌詠み

ひまわりと八月の色に染まる街それでも私はどっぷりと母

白いシャツ白いシーツを干す時もぽかんとしてる寂しさがある

日めくりをサッとめくりて始まる日マニュアル主婦に別れ告げたい

平和への祈り託してひまわりが五十年目の日立に咲けり




12月号  「心模様」  作品U集 高点歌

何が嘘何が本当とまよったら上を見ろよと十五夜の月

捨てられぬ過去形の恋ポケットに心模様は曇りのち晴れ

失いし日々にあなたもそっと消ゆ遠回りした夏のごとくに

違う道歩むと決めた交差点釦ひとつをかけちがえてた

かけがえのないはずの人その命痛みを知らぬ虚構の教祖

体温(ぬくもり)を伝えるごとく舞う螢君と我とをやさしく包む




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