1997年

1月号   「秋空」

園庭に八十五人の幼らがバトンをつなぎ笑顔をつなぐ

赤も勝て白も勝てよと応援の幼の心に秋空も澄む

がんばれの歓声のなか幼らの力みなぎる庭面いっぱい

大切と言うよりまずはとびきりの笑顔を持って逢いたいきみに

冬空は言葉も凍りつきそうで今しかないと誘われる秋

胸にもつ小さき秘めごとルルルルル呼び出し音に期待している

ひたすらにひと日ひと日を過ごしても形にならぬ主婦の一年




2月号  「携帯電話」

今すぐに逢いたい気持ち君に向け金属音が居場所をさがす

携帯の鳴りひびくベル聞きながら受話器持つ我たそがれをゆく

君のこと嫌いじゃないよとやさしさが最大限の冷酷さなの

結末をプラトニックとするならばおあいこがいい君との間合い

知っていた?無心の無って零じゃない無数と無限の生まれかわりよ

何もかもノーとは言わず済ます我七年目なる妻の立場に




3月号  「突発性難聴」

眼の前の医師はしっかり我を見て突発性の難聴と告ぐ

穏やかに病名告げてドアを開け静かに医師は去る検査室

今日ほどにがんばりましょうの言の葉が胸に響きしことはなかりき

ゆっくりとゆったりとしていればいい聞こえぬ分はわれ関せずと

大好きなオルゴール手にそっとのせ右耳の無事を確かめている

「神様の心のままに」と祈る吾娘聖誕劇のマリアとなりて

吾娘の瞳は優しき光たたえたる二十分間のマリアとなれり

忙しき師走の時間止めるごと喪中はがきが友の近況




4月号  「旬」

ま緑の葉っぱわさわささせながら八百屋の旬を飾る大根

主役からわき役までもこなすわよ買っておゆきと旬の大根

ふろふきは冷えた身体を温めて食卓の湯気それも一品

帰らぬと君が言うからワインあけ寂しき時を真に寂しむ

大吉の忘れたくない一月を歌におさめて夕餉の仕度

日常のほんの小さな幸せも詠めば永久詠まねば一瞬




5月号  「春」

園庭が梅から桃に移る季に児らの歌声風が運び来

ふらここよ舞い上がれとう声のして児らの背中を春風が押す

思い出す横顔の君この季節向き合えなかった卒業の春

怖いのはいつも「愉快」にかき消さる君の笑顔のウラの本質

打ち上げて打ち寄せてまた引いてゆく波音遠く「春の海」聴く

子に勇気与えてくれし君なればアニメと言えどドラえもんが好き




6月号  「春の色」

ベランダのフリージアの黄のゆらゆらり風が見えたと吾娘が笑いぬ

吾娘の声背中で受けて振り向けば春には風の色があるらし

萌え出でよ咲きほこれよと声をかけ春は静かに雨を運び来

花の色清らかな香りおぼろ月春の景色に心浮き立つ

ほろ苦さ口に含んで笑まう人食卓に春を運ぶ菜の花

いちめんの菜の花背負ってタタタタと夕暮れの道幼かけくる

ストレスのはざまで割った塩せんべい不整合なるは性格ゆえか

わかってる矛盾だらけの性格は他人に触れて欲しくはないの




7月号  「父の病の」

また来たと挨拶しつつ一歩ずつ病魔は父の身体に入るや

再再発告知を受けた父の癌いろんな色の感情流れる

感情もブレンドできるものだよとベッドの父は平常心に

ムッとしてトホホとなって受け入れて父は癌とう友と歩むと

葉桜はさわさわさわと鳴りやまず父の耳にはいかに響くや

入院の前夜も父はくつろげる「越乃寒梅」命の水と

これからの季節がいかに流れても父のごとくに穏しくいたし

「おじいちゃんお守り作ってきたから」と吾娘の笑顔に心が痛む




8月号  「歌のエナジー」

本来の我とのズレの感覚が歌のエナジーそんな気がして

ため息をつくのをやめてみたくってゴシゴシこする泥の靴下

横顔に心の綾のほの見える父のバースデーベッドの上に

病む父に無難な話題さがしても我の瞳はくうを行き交う

残酷は「がんばってね」の言葉かも何気なく今それを慎む

「がんばって」がんばってみてがんばればいったい何が変わるのだろう

「また来るね」我の言葉に向く視線やわらかき瞳は何を言いたき




9月号  「透明な感情」

尊厳死協会という名の知らぬ会への入会知らする父は

ポケベルの「がんばりましょう」響かせて声にならない父へのエール

なぐさめも励ましさえも見つからずただ透明な感情流れる

父は今一番何を望みいる耳をすまそう心の声に

一分も一秒さえも惜しむごと父はノートにペンを走らす

冷静に自分の人生決めたきと父は自ら尊厳死語る

「お父さんあなたの娘でよかった」と微笑み添えて向日葵飾る




10月号  「あの頃」

なつかしきメロディーのなか佇めば二十歳の我にタイムスリップ

過ぎ去りし君との景色ペイントでぬりかえてみる題名は「永遠」

ひたすらもこぼれるような微笑みも守りてくれし君あればこそ

日焼けして汗ばむ君は真っ白の歯を輝かせ少年になる

むし暑き時間のながれ止めるごとなつかしき曲風に届きぬ

信仰は神への恋と君言いて唇キュッとかみしめている

どこかしら父のごとしと想い見る夕焼け空はしずかに泣けり




11月号  「夏」

一瞬に空と茶臼の間よりわきおこる雲弱き旅人

旅の夜は激しき雨ときれぎれの光にみだれ眠りの中に

片言の日本語しょって客をひく耳をすませば風が泣いてる

外国にマリオネットをあやつりて大道芸の君の瞳かなし

遠ざかるバックミラーの茶臼岳少しずつ旅が想い出となる

堂々と白地に「氷」はためかす宇治金時に夏を味わう

キラキラの宇治金時のハーモニー頭のしんが「夏だ」と叫ぶ




12月号  「旅」

旅にあるわれを包みてまったりと流れる空気オルゴール館

道を往く人の横顔楽しみて橋にもたれる旅のひととき

カウベルが迎えてくれる喫茶店水の氷もゆっくり溶ける

年を経た柱時計がボーンボンどうぞ時間を大切にねと

白き雲山の緑と空の青旅の思い出一列になる

温泉の旅の土産はこだわってひのきの石鹸ひのきのチップ

秋ですよしめじまいたけたっぷりで森のグラタン森のオムレツ

もう少しもう少しという階段ものぼれぬ予感秋は長雨




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