2000年




1月  臨界事故

突然の「臨界事故」の一報に出口閉ざされ会話も沈みぬ

危険とう認識を持てと言うようにニュースは事故をリピートしてる

目に見えぬ放射線とう曖昧は息をひそめて瞳こらせど

「臨界事故」出口の見えぬ道ばかり風評という被害押し寄せ

満ち干きがあるのが世世の常なれど寄せくる波は高波ばかり

放射能「サーベ」とう名の測定も事故起きてのち疑心暗鬼で





2月  看病の日の

我が家へと帰りたいとう願いさえかなえてやれぬ看病の日の

病室に二年六月を過ごす父「頑張って」とはもはや言い得ず

病室に「ぬはり」初校本携えて校正するも日常のうち

父さんの喜ぶ声が聞きたしと始めし短歌わがためとなり

常々に「心を歌に」と言いくれし父の言葉が胸に響くも

去年今年笑まえぬ日々の続きおり心の支え歌に見い出す




3月  月  (集・推薦歌)

ひとすじの眉のごときは二日月木枯らしの中とどまりている

不幸をば呼びこむという三日月鎌の形は光を放ち

地球照「我は今宵も丸です」と言いそえるごと淡く光りぬ

日の暮れに現われ出でし半月は何をねらいて(かみ)の弓張り

吹かれゆく雲の間に見ゆる望月の青く見えたる光哀れに

ためらいて木々の影より上がりくる十六夜の月入る方いずこ




4月  父は逝く

ひき潮に誘われるごと父は逝くひかれる先はいずこいずかた

日常がひき潮とともに消えゆきて「いかに生きん」と我に問いたり

看護とう我の日常消えゆきて失いしものの大きさ想う

「いかに逝く」最期の瞬間(とき)を飾らんと父は威厳と誇りに満ちて

旅立ちて妣待つ空へ向かいしか微笑みており父の遺影の




5月  天のプリズム

樹も家も行き交う人の顔までもたそがれ色に見えしあの時

気がつけば夕焼けが闇に吸い込まれ群青深き空に三つ星

父逝きてその魂はいざなわれ宙の上より我らを包み

宙にあるいずれの星になりしかと子は三つ星をおじいちゃんとう

おじいちゃんきれいな夜空作ってと星にむかいて小さき手合わせ

青白き光を放つ三つ星の作りし空は天のプリズム




6月  梅の香

梅の香に誘われ一歩また一歩雅びな風を愉しみてゆく

春よ来い春よ来いとう風の声ほのかな梅の香りとともに

去年今年咲きつぐ梅の薄紅のあるじ逝きても変わらぬ庭に

たそがれに梅の姿も影となりこれより先は香り楽しむ

純白の光を放つスピカ星守る麦星夫婦星とう

亡父母の守りし梅は影となり暮れゆく空には夫婦星見ゆ




7月  花びらカノン

祭の夜ライトアップで浮かぶ花見つめる今宵セレナーデ・ル・ル

花びらの散りゆくさまもたおやかに見渡す限り薄桃の(くう)

ひらりひらひらひらひらりひらららら風に花びら気ままに踊り

一面を桃色に染め散る花は哀しくもあり愛しくもあり

咲きいそぎ散りゆく花を見事だと感じる君がまぶしく見えて

一面の春を含んで咲きいそぐ散りゆくさまは花びらカノン




8月  心の闇

今日もまた心の闇をもつ子らの光の見えぬニュース報らされ

ひとことで心の闇と語るにはあまりに非道少年の罪

まちがいというにはあまりに悲しくて少年犯罪犯罪少年

十代の刑法犯が増えてゆくミレニアムとう輝き消して

少年は大人に何を語りたき犯罪というむごい形で

ひとすじの光与えよ眼をさませ真すぐに生きる力を子らに




9月  ポール・セザンヌ

眼交(まなか)いに木々ゆらめきているようにセザンヌの絵に光さしいる

眼交いに広がりそしてそびえ立つこの景色こそセザンヌの(あお)

眼交いに君が見つめし緑こそセザンヌの色まばゆきドリーム

眼交いの絵に一筆でセザンヌは枝さざめかせ風そよがせて

一筆の描く世界に誘われてセザンヌの絵の空間に入る

「こんな日が続くといい」と言いながらセザンヌの絵の緑見つめる




10月  




11月  ピアノ・コンサート

遠き日のおどけた君の愛らしさ小首かしげて「エンターティナー」

ゆるやかにサロンに響く「花の歌」色とりどりの花びらの舞う

向かい合う君への想い旋律にメランコリック「ジュトウブ」ワルツ

いつだって自分が主流と我をはりて「母への手紙」に胸ふさがるも

何となくグッと胸はり歩きたい「威風堂々」の和音に押され

壮大な世界に我をいざないて心揺さぶる「英雄ポロネーズ」




12月  ただ今到着

うっそうと揺れる緑に点々のコスモスの秋ただ今到着

青々と澄みわたる空背に負いて何にうなずくコスモスの花

壮大な地球の自然さまざまに五輪の春を画面は写す

紅と青紫の花五輪南半球幻想の春

南北の選手の歩み晴れやかにほんとの気持ち伝えるごとく

南北に分かれた心取りもどすその可能性五輪のもとに





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