耳元で「大切だよ」と告げられし声に総身微熱を帯びぬ

ゆっくりと舞う雪虫は夕空に出会いは哀しきものと言いおく
                    
                 わけ
構えずに向かい合いたるつかの間にともに在る理由無音に響く


      は                                   かけら

道の端に緑のままに散るひと葉 光の破片さえも感じず

穂のゆれはおいでおいでと誘いぬ引き返したい気も知らないで
     このてかしわのりょうおもて
神無月児手柏の両面 心はここに風葬とせん

のみこめる言の葉すでに多すぎてぽろぽろぽろと頬を伝いぬ

やみに降る雨ぽつぽつとアンダンテ明けゆく空の序章と聞こゆ






月が満ち月が欠けゆくそのときに波長をなぞる身体をひらく
                                                    ドア
この細く幽かなひかり感じよう月の未知なる扉開くため

とき新た開きはじめた月かげの奥に秘めたるものを見つめん

西空に語りかけよう三日月は無から生まれたものの確かさ
                                        ムーン ・ マジック
光にもかげにもなれぬ曖昧も朧になせる月の魔力

夕月に向かいつぶやくいろは歌散りぬるものは知らずはからず
                                             ブルー・ムーン
何を聞く何かを語ることもなく飲もうよ今日は「青い月」を

赤き月今宵はなにを照らそうややさしさ秘めたひかりこぼして
ひとりごと
<師 走>
寒椿
愛されぬままに散りゆく赤き花水面を染めてひたぶるように

抱かれず堕ちて流るるひとひらか産みの性持つ身さえ哀しく

かばかりに翳りたつ身に眼裏に赤き花びらははらりと落ちぬ
      とき            ひととせ                      いだ
ふりむけば季に追われし一年の思いを負いて想い抱きて

しどけなき心で日々をやり過ごす師走の風に揺るる椿も

遠きもの見えないものに怯えおりすべてを棄ててただ眠りたい
                      くう
水色の言葉届くも低温で寒椿咲く空を抱きしむ

荒波はつぶやきひとつ飲み込みて白き飛沫と散り果てて
消ゆ






ゆれやまぬ桔梗穂すすき女郎花もろき心を持つはやさしき

色ながら散る散る落ち葉道を染めひとりひとりの秋を語りぬ

ひそやかに湖面に紅葉散りゆきぬ末枯るる声は水に伝うや

葉を落とす木々に凛々しきジョウビタキだいだい色の声高らかに
                        とき
いつかまた大輪の華を咲かすためしずもる季もあると信じて

この場所であなたを待ちたいだけだった独りゆくには風が強くて

真夜中にすべて失くした裸木に語りかけるは「魔女の大空」

守りたる夢盗まれて目覚むればきりりと寒し 冬に踏み入る






<霜  月>
もろき心
微  熱
<神無月>
その胸の苦しみの渦解きやらん祈りにかえて歌詠みており
                                                  かたど
グラウンドゼロに残れる鉄骨は十字模り街を見つめつ

立ち並ぶビルの谷間に昇りゆく月に祈りぬナイン・ワンワン

今在るということの意味を問い続けグラウンドゼロに祈りつぐ人
      すすき
さわさわと薄の葉ずれ夕闇にテロの傷跡うれえ沈みぬ

テロにより遺族とされし人見つむ遺骨なき墓に思い重ねて

秋の日の一雨ごとの深まりに眠りつく手を離せずにいる

この秋の空を両手で突き上げん心の半径少し広げて

<長 月>
グラウンド・ゼロ
ひとりごと  月の魔力  心の裡に  真名 

五月闇  今が花   雨の力  夏の光  

グラウンド・ゼロ 微熱  もろき心  寒椿
<葉 月>
夏の光(かげ)
                          かげ                      と き
朝靄のうみよりのぼる夏の光思いめぐらす二人いた時間
蒼天に風が運びしはぐれ雲 ひまわり畑眺めて発ちぬ
     たぎ
燃え滾る陽と向きあいて咲きさかる紅蜀葵の葉の細くつぐみぬ
                                           かげ
細き葉をおぎないて咲く鮮やかにもみじ葵は光を束ねて
庭の辺に名も知れず咲く紅小花絶やさぬ水と心を寄せん
結び葉のあわいに数多ふりそそぐ夏の陽ざしのステンドグラス
                              ひとはな
蒼空に浮かぶひとひらはぐれ雲一花ごころを風が運びぬ
往く夏になおに煌めく陽をうけて虹やわらかに弧を描きいる
<文 月>
雨のちから
てんきゅう
(天泣) 見あげれば青空なるも薄雲の天泣なるや雨にたたずむ
 か う
(佳雨) 六月の紫陽花に降る佳き雨の青葉若葉をつややかにして
ほまちあめ
(外持雨) かみ合わぬ会話つづけば外持雨寄るべなき身を無にもどさんと
きげつあめ
(騎月雨) ちろちろと水面にゆれる笹となり逢いにゆけない月越しの雨
そでのあめ
(袖の雨) 西空へ旅立つ鳥に袖の雨手繰る術なく晴るる間もなし
いちみのあめ
(一味の雨) もろもろの思い草木になぞらえて詠めば一味の雨ふりそそぐ
なみだあめ
(涙雨) いろどりを添えくれしものに幕をひく「おつかれさま」と涙の雨の
せい う
(清雨) フィールドにボールを追いしイレブンに幕ひく時の清らかな雨
<水無月>
<皐月>
<卯月>
<弥生>
<如月>
<睦月>
今が花
今が花 本心ひとつ隠さんとすれば紫陽花さく色うすく

今が花 そのくれないの凛として位置を定めて咲くタチアオイ

今が花 心ほぐして咲く牡丹そのくれないのやさしと見ゆる

今が花 悲しき別れ負いしまま小花咲きつぐ面影草は

今が花 何処へなびく藤の花あるじなきまま風に揺れいる
                           はながたみ  
今が花 摘みてゆかんか花筐めならぶ人の心はかりて

今が花 花の言葉は「なぐさめ」と知りて愛しき葵そのかた

今が花 悲しき過去をたずねつつ影を見て咲くひめゆりの花

さばかりに思いつのれる五月闇出会いしばかりに知るさびしみを

妻というよろい解かれし五月雨の闇なるさだめを受け入れてゆく

棄てられぬ忘れられぬと巡りくる心の数珠さえ見ぬ五月闇
                                  ま め
五月雨の闇にいり来る光には忠実なる男の覚めた視線が

五月雨の闇に見えくるひかりの輪細き糸もて手繰りてゆかん

愚かなる自分に気づく五月闇やさしき嘘を聞くは寂しき

むらぎもの心に雨のふりやまず傘をさしかく罪深き手は

嘘と知る昨日を抱いたやさしさにやみそうにない風の音聴く

五月闇
真名
したためし真名のひとつをひもとけば春のほだしもほころびてゆく

擦れ違う日々のあまりに多くして両手のひらを君がみ胸に

優しさの人の欠片が消ゆるとき憂いに満ちたし・ず・く・し・ず・く・の

ひめごとを語ればつらし言わざればたった一人の吾となりぬる

ゆく川の流れにのりて生きゆかん水に守られ明日を演じて

一人ゆく位置定めたる約束の君と結びし糸を断ち切り

悲しみは心に非ずとふる雨か花にありやと眺むる杪
              まこと
身のうちの真実語れぬ口びるに刻む思いを知る花曇り
心の裡(うら)に
そぼ濡れてなお柔らかに梅の花そのしずくまで薄紅にして
               くう
高木の古巣の空の寂しさよ華やぐ春の心の裡に
           がりん
まどろみに芽鱗はじけてささめきぬ綿毛まぶしきムラサキシキブ
  
そこここに梢をゆらすシジュウカラ春を奏でる音色近づく
                                   つ ぶ
カタクリのそそとま白きひともとも光の粒子をあつめて咲けり
  
うつつ世に散らぬ花などなかりせばいかに散らさん桜雨ふる
けぶ                          い く か う こ う う
烟りつつ乾いた心にしみいりて育花雨紅雨ゆるうり生きん
いやし                            さ い か う
弥重きも届かぬことばあまたあり催花雨にさえ咲かざる花の
月の魔力(ルナシー)
「眠るふりしていただけさ」森も木も同じ呼吸を重ね合わせて

綿雪のふいと消えゆくてのひらに「やがて朝だと気づいているか」

「見つけたね」春すこし前カーテンの細いすきまのあわい光を

無防備な背中を見せてひくルージュ「ピンクなんだね春になるから」

見上げれば「あのさぁ」なんて口癖と大きな空気につつみこまれて

やわらかい手のぬくもりを感じたら「冬は終わり」と白い歯こぼす

変わらない白いご飯にゆっくりと味わう朝の「玉子焼き色」

とまらない時間があるからSpringふたりにも来た「ひとりにも来る」
<2002>
短 歌 
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