ほっ                                         いと
実体を欲することの罪と罰 滅ぶ心の別れを厭う

とき
季節はゆき陽はさえぎられ暗き朝 あたたかな嘘を胸に抱えて

うたかたに消えしみなもの雨つぶは二度とは生まるることなきままに

おくびにも出さぬそねみの湧きぬるに今日を限りの仕舞いを演ず

小夜千鳥長き闇路にチヨと鳴き迷いの道の拓かれてゆく

厚き雲黒き雲また押し寄せて姿見せずにゆく忘れ水

みおつくし抱きしめくるるものは風 潮とどろきに胸ふさがるも

なが雨に小さき川のささにごり暮れて水際のともしび揺らす






 
とんとんと木枯らしの杖の音ひびき落ち葉連れ去る花いちもんめ

ピシーンと闇夜に高き声を聴き星渡る空は澄みて呼ぶ冬

身のうちの覚束なしと雁が音の消えゆく空に耳をすましぬ

ふたたびのときのめぐりに君が名をつぶやく窓には陽ざし穏しき

虚と実の狭間にあってただじっと夕陽背にした窓の夕焼け

抜け殻は送る季節の思い出の形のままにそこに残れり

澄み切った空の蒼にも癒されず散るあかい葉に別れを告げる

かさこそと落ち葉は道の端にころぶ返しの風に薫り留めて






いくたびも昨夜の寝覚めに祈れどもつれなき人の心は見えで
               なかぞら
思いやりひとつ残して感情をこの中天に捨てられまいか
目に映る銀杏もみじの黄葉の美しささえ胸に余りし
ぼつねんと加護されずある身ひとつに銀杏降りしき秋風も往く
この道は誰が描きし道なるや紅葉舞わせて木の実落としぬ
踏み迷い途切れし道も谷風の通うと知りて紅葉色づく
この胸に呼び返したき君なれば秋更けぬとに祈り綴りぬ
カオス                                                  よ
混沌より脱け出さんとしてもがきおり水はしずかに身のうちに揺る






12月
    滅ぶ心 
11月
  花いちもんめ 
10月
   混沌(カオス)
空のいろ昨日につづく今日なれどかそけき風は秋を告げおり
    ほし
この地球の青の底まで見通して赤き空もつ星近づきぬ
              うから
通いあう心なきまま久けれ風の族になりたかりしを

澄みわたる空のにおいの秋の風 終りにできぬ歩をすすめゆく
                    そら
この双手広げてなおも有り余る言の葉なれば宙に描かん
                        コスモス
たおやかに咲きたる野辺の秋桜に心つくして風吹きわたる

ゆく道に逢うや真白き曼珠沙華 同じ時間を生くる尊さ

悲しみも憂いも言わず曼珠沙華 高きに向かい凛として咲く





9月
    風の族 
8月
  命をつなぐ
この宵の星の林の天空へゆれやまぬままの言葉綴らん
                  
天にある人への願い渉らせて今宵は星もあまた耀く
 
ほお寄せて抱きしめてみたき人のあり第二人称に心和ぎゆく

あわあわと宵待ち草のほころびに光そそぎぬ今宵望月

ただここに香雨の一過見送りぬ夕空晴れて身めぐりに夏

大岩のあわい流るる水音と植樹の陰に憩う涼風
             
そうび
土砂降りの雨に逝かんとする薔薇残んの花は喪に服しおり
              
わたくしあめ
ゆく方を失くしたたずむ三叉路に私雨のすぎゆくを待つ







7月
  香雨の一過
ひそやかにかかずらいつつふたもとの花は笑まいぬ風の通いに

水無月に川音の時雨響かせてきらきらきらと光が跳ねる

意志持たぬつぶやきひとつ携えてゆく細道は行き止まりかも

こよろぎの磯風薫り波の音何も応えぬままにひきゆく

流離いに寄せ来る波の音低く問わず語りにここに安らう

ふるふるる一味の雨に充たされて花は揺れいるなにも語らず

張りつめた心の糸の途切れしをやさしくつなぐ紫陽花の雨

安らげる場所にもなれず遠くいて我が身ひとつの君にはあらぬ






6月
  何も語らず
緑濃き山あいにあれば母の脈包まれており風と相和し

結び葉に風のひかりのシンフォニー春の限りをうべなうように

騒立ちてあわいに光こぼす葉の作れる蝶の舞う散歩道

透きとおる緑の光のもとにいてつかめずにいた蝶は飛びゆく

藤揺らすしなとの風に水も澄み宙にキラリと光放ちぬ

うららかに照り映える今日蒼き日に波がわたしの愁いをぬぐう

誰にでも上手くいかない日があるもミモザは香るきょうは薄ら陽

頬なでる初夏の風など受けとめて思い残して断ち切る昨日





5月  
  春のかぎり
さ く ら
4月
       
かすみたつ山の上に咲くひともとのやさしき春に潤む眼裏
                  め       すいてん
とけやらぬ胸の薄氷そのままに花愛ずる瞳の奥の翠天
 
咲き満つる花知らしめす時の綺羅遭うことの意味を伝えるために
                                      くう
そこここに新しき花咲き初めて喪失という空を埋めゆく 
                                  まみ
片つ枝のつぼみのままの一輪は今宵散りゆく花と見えず
 
いとかくて散りぬることも我が身とて君往く道を染めし花びら
 
新しき色に生き継ぐさくら樹の命濡らして花時の雨
 
永訣の赤き涙をうちはらい明日に移ろう花潔し






3月
さびしき心
     もと
きみの許たどる道行き閉ざしつつ弥生の雨の音のひびける

哀しみに赤き涙を滴らせ色を失くした花びら幾重

      メロディ
桃の香の旋律を風の運び来てさびしき心問わず吹き過ぐ

疾き風の連れ来し光に誘われて野辺の土筆は空へ伸び立つ

筆の花伸びゆく先の一点に視線をおいてしたたかにあり

駒返る草は季節の扉開け私の時間は盗まれてゆく

初花の便りに心躍らせて小さき鳥の囀り詠う

    とき
再生の季節は来たれりほつほつと爆ぜる芽吹きに思いをうたう






 
2月
いびつな林檎
もう何も生み出すことのない時間ここまでだねの夕陽が落ちる

この月のまあるく白くぬけるほど空にはぽっかり夢がはぐれる

寒空に物思いさす月の出て「甘えることさえつらくなります」

朝日さすリビングにあれば見透かさる深く色づくいびつな林檎

                                     あらくさ
こみあぐる涙も声も土なかの根っこに置きて光る雑草

消え失せしやさしき笑みもいつかまたそよろの風の運び来るやも

                                       しじま
こもごもに過ぎゆく日々のもの憂きも今を生きよと静寂の梅の

ふくいくと薫れる梅のほころびて春立つ今日に夢を結びぬ






 
過ぎゆきを胸にたたみてまどろみぬ秘して身に添う胡蝶の夢と

かなわぬと知りつつ結びしあやなれば受けとめてゆく言葉の露と

香りたつ七草粥の芹ふふむ知る人もなく越え来し今日も

淵深き谷をのぞむに身をつつむ和風はかすか春をしのばせ

この瞳にはきみが姿の見えざるに初空映しゆく思い川

満ちてゆく三日月ほどの温もりでふれふれ光われのみならず

冬されば「逃げ出さないで」とくれないの椿の奥のまほらの空も

オレンジに染まりし西の空のかた祈るかたちの雲を送りぬ






苦しみを取り払わんとひざまずく神の試練と光は降りぬ

なみだ目で見つめるものは反転す欠けゆく月は満ちくる闇に

天上の妣へと送る大輪の花に隠した少しの弱気

つまづきて芽生えし弱気立て直す涼やかに薫る花野をゆきて

広き野の小さき花に風わたる影のかさなり命をつなぐ

口もとに笑みをたたえて咲く芙蓉やさしき色は胸処を染めて

組み合わす手の隙間よりほつほつと祈りは天にすくわれてゆく

はかなきは東雲草の朝の露ただに見守る安らぎとして







胡蝶の夢
1月
胡蝶の夢  いびつな林檎  さびしき心  さくら  春のかぎり  何も語らず

香雨の一過   命をつなぐ  風の族  混沌(カオス)  花いちもんめ  滅ぶ心
<2003>
短 歌 
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