<冬をいだきて>

     天恵のあわき光をたばねつつ冬を抱きて咲く福寿草
                いろ
     寒牡丹ただ一輪の点景に彩引き合える蒼き美空の
     ひとえごと散る寒椿の花びらをひろいあつめてふた手につつむ
     枯れ枝にかすかに震える鳥一羽とおく見つむる山は黙して
     風止みし午後のひかりに誘われてノースポールの白さがはねる
     そこはかと人恋しきは帰り花白き花かげふるるとゆれて
     春まだき節分草の花笑みに心の鈴のチリリと鳴りぬ
     何もかも受けとめくるる白き花まだきに咲きて心揺さぶる
    
  
  
  
  
  

<春へと・・・>


       右の手の指の先まで凍てしこと左のてのひらのみが知りしと
                    おもいで
     片笑みでぽつりと声に出したとき記憶に変わる重ねた時間
     この場所にこぼれた思いはじっとただ逝きすぎる季をなぐさめとして
                              とき
     いにしえの言葉に添いて頷きて歌のいのちのよみがえる時間
             は                       と
     ゆきかよう美しき言の葉ふうわりと大和の春を連れて訪い来ぬ
     友のいて言葉浮かび来 そしてまた 言葉によりて時はうつろう
     ときめきを秘めつつ昇るきざはしの先に陽を浴びふくらむ蕾
     春近きむべの嵐の吹き来るも震える梢につぼみの添いて
  
  
  
  
  
  

< やんわりと・・・>
  
        ゆきてなお思い出のとき深まりてしゃぼん玉ふく春の夕暮れ
                                  とき
        さりとても忘るることの出来ぬ日のやさしく季節を語る口もと
        つつまれてみたき想いに歩を進むやさしき色の春のめぐりに
          やんわりと春風めぐり踏み出しぬ笑みてたたずむ白きたんぽぽ
        春風のリズムにあわせカーテンのやんわり揺れて時を刻みぬ
        やわらかき光の春にとけいりし幸せの粒ふりそそがれて
        花だより届きし朝のひとときはほっこりとした気につつまれて
        いとゆうの心もとなき春の野に確かな一歩発ちゆかんとす
  
  
  
  
  
  

<花びらのなか>

                おち    くう
         あわずまに遠より空うめて咲く桜前線ここに至れり
         きららなす言の葉尽きることもなく君に伝えん花のたよりを
         花満ちて束の間にゆく花いかだ音なきままに時を連れ去り
         さびしさという言の葉を脱ぎ捨てて花の衣をまとう里山
                               かな
         ひともとの花枝手折る君が手の仕草愛しき花びらのなか
         新しき階段のぼりゆく子らの背中を押して風の花びら
         散り急ぐ花びら差す手に受けとめて命継ぎゆく余韻に酔いぬ
         散る花のもとにやどりし数々の命芽吹きて時はうつろう
  
  
  
  
  
                                                              

<名残り>


      はつなつの北緯38度線さらに北へと君に逢うため
      しあわせは小さきところにあると知る君の瞳に映るわが影
      まみゆるも短き夜の明け経ちぬ吐息ひとつが重く聞こえて
            さか
      ためらいに月遠りゆく西の空夢の名残りの鳥も発ちゆく
                                           とき
      たつ鳥を穏しひとみで見送りぬ無調音なる季節のはざまに
                             こう
      なにものも拒まずにただここにあるがらんどうなる腔の不可思議
                         あわい    
      足らざると思う気持ちをしまいつつ君との間つなぐ言の葉
      まなかいの色やわらかに柿若葉からぶる心を休めし朝に
   
  
  
  
   
  

<午後の人生> 

         陽を受けてかがよう青葉 午後二時の小さき人生見つめて揺るる
      湧き上がる雲より届くメッセージ人差し指が硝子をなぞる
         そそぎ降るはつ夏の雨はみどりいろ待ちぼうけしたるエゴノキの下
      ぽつぽつと遊離してゆく身のうちのしずくと見えしこの青葉雨
      大空に遊び疲れて陽はかげり悟りきったる雨の紫陽花
      つれづれと花に誘われ寺道に面影たたす心細きに
      残されて生きていきゆく花のみち供養している夢のかけらを
      天泣にラからはじまる旋律の流れて夕べに虹と変わりぬ
  
  
  
  
  
  

<うき世 >


                      むらさきおもと
      朝陽さす野辺ゆるやかに目覚めゆき紫万年青の露と耀う
      なつかしき想いの底のもじずりのねじれしままに恋風に揺る 
      恋風に揺るる想いのつらささえひと日かぎりと散る花木槿
      なにひとつ見ずともなにも語らずも天鼓響きてわれを導く
      幾とせを波に走りし船なるや無風の海に帆をたたみおり
      手に軽き写し絵となり若精霊還り来まほし波に遊びぬ
      航海を導く星のまたたくも淡きひかりに迷いおるやも
      尾をひきて流るる星のひいふうみい憂き世語りの余韻のうちに
  
  
  
  
  
  
 
<海馬を走る>

          
       ざわめきも風のにおいも消し去りて数千の刹那海馬を走る
            切なさも辛さもなべて片隅にめぐる記憶は海馬に走る
            うつし身の熟し切れずの恋心散りぬるときぞ聞く遠花火
            地上より湧き立つ雲よ七月の軋みはき出せこの中空へ
                                  は な び
       失いし光のつぶの残りたりツンと身体にしみいる線香花火
       無言なるひと日の心の揺れを抱き色を失くして闇と暮れゆく     
              いちにん
       子ら発ちてただ一人となる朝に蕃茄食みつつ夏を送りぬ
           
       なみだ目に霞む月かげ胸に受く何が私を生かしくるるや
  
   
   
 
   
 

<秋桜> 

          秋をゆく風のまにまにクスクスとコスモス揺るる笑みをこぼして
          たよりなき仕草に揺るる秋桜ちいさき笑みを我にこぼして
          子とならびおんなじ形のおべんとう爽やか色の風吹きわたる
          やわらかきオレンジ色に秋桜昨日のつづきの秋深みゆく
          月光の届かぬ闇にあればこそ幽き花の揺るる音聞こゆ
          囚われていたのは空に夏の雲秋は高きに遁れてゆかな
            ようぜんと光りの帯の水の面愛するものよとこしえにあれ
            生半に揺るるからこそ恋花は美しく咲く人目ひきつつ
 
 
 
 
 
 

<奥処無し>
  
          きざはしの一段ごとに煩悩を断ちて山寺奥の院へと
                                               お く か な
          断ちゆけどわが煩悩の奥処無しうつつなる日々思い返しつ
            傷みもつ心をやがて鎮めんとやわき光に日記したたむ
          ひとひらの朽ち葉舞い散る木曜日 季節のすすみ告げて夕暮れ
          鳥風に葉の散る音の響き来る明日は今日より高く行かなと
          体内に脈打つ波の音聞こゆ アンドゥトロワと今日を括りぬ
          ふたりとう括りのいかに変わるともひとりの人を見つめて往かな
          ほつほつと心のあやを織りゆきぬただにわたしのためのみならず
 
 
 
  
  
  

<存在証明>
       遠く建つ光りの柱は闇に泣く疲れた街を支え切れずに
       凛呼たる姿に今日の一歩目を踏み出す少女に朝陽射しくる
       いくたびも躊躇いとどめし言の葉もまた色づきぬ何度目の秋
       鯛焼きのあんしんふふむ口いっぱい木枯らし一号吹き荒れた日に
       地上にも数多輝く星あらばこの目に耳に刻みて往かな
       頷きて「人生のメリーゴーランド」エンドロールに口ずさみおり
       写し絵の君は変わらず笑まいおり変わった私を知らないままに
       去る月もまた来る月にもわたくしの存在証明しるしゆきたし
  
  
  
  
  

<水籠もり>
          手をつなぎつつまれ眠る刹那にも最後の一葉枝先に揺る
          三日月に指先かける真似をして月のうさぎを待つ一週間
          錆びついた心の壁をうすく剥ぐ大事な思いはそのままにして
          雑踏に確かなものは消されゆくただ一瞬の静寂のうち
          水籠もり(みごもり)に言わぬ名残りの中和され鶴首岬になく波の音
          ゆくえなく水面に映る街に問う思いはなおに水に籠もりぬ 
          過ぎゆきに確かなものなど何もなし双手につつみしものみな愛(かな)
          てのひらに握り締めたる砂のつぶさらさらさらと無常にこぼる
  
    
  
  
  
☆冬をいだきて    ☆春へと・・・    ☆やんわりと・・・     花びらのなか    ☆名残り     
午後の人生    ☆うき世   海馬を走る 秋桜 ☆奥処無し
☆存在証明 ☆水籠もり
<2004>
短 歌
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