秘すれば











ふと見上ぐ先に見下ろすまなざしのやさしさふたつ言はず受けとむ

産むための性にはあらず秘して逢ふ煩悩祓ふ鐘は響きぬ

許されぬままに更けゆくぬばたまの昨夜の腕に乾かぬ帆布

細き枝に残るもみぢのひとひらをかなしく映す今池の面

ぬばたまの昨夜にひとひら逝くもみぢ薄き影見て発つ鐘ヶ淵

泥濘にはまりてしばし足元にくるくるまはる小犬となりぬ

限りなき








風の音は君かと思ふ弱さなど抱へきれずの我が身我が裡

をさな日のごつこ遊びの鬼のまま追ひ続けてる大きな背中

限りなき星より地球(tera)に選ばれて「あ・うん」のあはひ生きて生きゆく

ほころびし心を繕ひなほすためひと針ひと針誓ひの糸を

甘えずの誓ひのままに髪を切りがむしやらになる もう若くない

ラケットの先に追へないシャトル落つ甘えひとつを切り捨てられぬ

逢ひことば








薄縹色した空をスプーンの湾曲に映すただに円かに

逢ひことばまひごの森に遊ぶとき完全黙秘の携帯電話

コブシ笑みマンマユートのボスも笑み通せんぼしてた風が解けた

通せんぼしてゐた風がほどけた日ジブリの森に春はほころぶ

しやぼん玉ひとつはじけて春の音ふたつはじけて幼が笑ふ

をさなごにもどりジブリの森に入る 二時間ちよつとの魔法にかかる

惜春賦








はまなすの香りに未来を語りたる君は逝きたり消え去るやうに

つかの間を生きて往ききり花筏 紅けざやかに水面を染めぬ

ともに散ることもゆるさずさくら花 かなしき春を重ねてゆかむ

逝く花と咲きつぐ花の命脈にしかと生きたる記憶をともす

からつぽの会話うべなふ人もなく仕舞ひの春に葉桜そよぐ

一束に込めし思ひの春紫苑君が眠りし丘に手向けぬ

ときの
   ほとり







天と地と人と草木を結ぶ里ときのほとりに水を湛へて

寺庭に幾重に咲きて芍薬は人の祈りを掬ひてをりぬ

古寺の小道へ招くほの香りエゴは笑まひて今をつつみぬ

旅人をやさしくともすうす紅の更紗灯台ともに見つむる

砂利道のすすみに蹠息づきぬ挽歌は奈良の里にをさめむ

今といふ時間に生まるる言の葉を守りて里のうた人となる

バツテリー








振りかぶりただ一点にをさまりし球のおもさに頷く捕手は

その胸に向けて届きし速球のうねりのままに受けよ我が子よ

白球を追ふ瞬間の無から有の境に見する練習のかけら

肩に手を添へてなぐさむ 失投に歯をくひしばる根性のかけら

「球場(ここ)でしかわからないんだお母さん」砂埃の味芝生の匂ひ

ひとり立つ大樹がたたへし緑葉の球児の夏をただに守りて

汀まさる










久慈川の汀まさりて逝く君を惜しむ涙の絶ゆることなく

踏み帰る場所を喪ひモノクロに傘は映りぬ君を惜しみて

梅雨曇りの湿りし空気の重さなどはかれずにあるものは多くて

厄の続く心を鎮めむと音なき雨は垂線に降る

約束を違へし過去の後悔と破きし地図は記憶の底に

すれ違ふさびしさよりも行き違ふ空間に雨「君死に給ふ」

笑顔
  結びて











薄紅の合歓咲く庭にをさなごは「ほはほはほはりん」ギャロップ輪舞

ちさき手をかざして合歓の花の刷毛おほきな空はきみのカンバス

暮れなづむ空をとらへて合歓の木はをさなの声をつつみ葉を閉づ

学童の日陰を守りきて夕べ祈りの形に閉づ合歓の葉の

手花火のパチパチパチとはじけ散るわれとをさなの笑顔結びて

そこばくにあふるるをさなの言の葉をみそひともじの歌に紡がむ

「色即是空」









花縮砂(ジンジャー)のたかき香りに夏は往き鼻の奥処(おくか)をツンとはじきぬ

道の辺のいちしの花をたどりゆき色なき風に焚く白檀香

窮屈な定型のなかに反芻す確かなことば不確かな意思

吐き出せぬ言葉しみみに胸におく許容量など量らぬままに

風立ちて「色即是空」聞え来ぬ止まりしままの時刻(とき)をほどかむ

「人の世とこころはまどかに成り立ちぬ」月の(ことば)と聴く秋の宵

原風景









大好きな「みかん」で終わつたしりとりの泣きべそ恋しいあの帰り道

縁側に伸ぶる日ざしの十月の栗をむく手は母のおもかげ

頬張りしピオーネの粒大きくて実りやさしく秋にあふれて

君が眼に消えゆくものの数あれど変はらず渡り来る鳥は居て

てのひらの運命線(せん)は続くと信ずればこの一点はか細き亀裂

空高し固定されたる物差しを棄てて見上ぐる空ただ高し

『ALWAYS』









客席のライトがフェイド・アウトして昭和の町へといざなふ声音

しづやかな昭和の夕日うるむ眼に「続・三丁目」エンディング流る

過ぎし日と喪失してゆく想ひ出を鳩笛の音に留めし昭和

郷愁は潮のかをりに波の色昭和を染めし日暮れの音色

びゆるるると木枯し一号葉を舞はすもみづる深き秋から冬へ

紅き葉のもとに揺れゐる蓑虫のしづかな里の秋は暮れゆく

我ひとり
   知る









往く秋に冬青(そよご)の紅き実のいくつ風に小さく震へてをりぬ

クリスマスイルミネーション幻影の窓に貼られし装飾の雪

ただひとつ祈りを秘めて購いぬ「聖なる願ひ」のポインセチアを

暮れなづむ空の寒さに見上ぐれば我ひとり知る雪のひとひら

南東に流るる星に祈りをり見継がれてゐたき人の命脈

右耳にキーンと吹ききし北風にこれより冬の足音を聴く

このページの歌は旧かな遣いで表記されています
 秘すれば   限りなき   逢ひことば   惜春賦   ときのほとり   バッテリー 
  汀まさる  笑顔結びて     「色即是空」    原風景   『ALWAYS』   我ひとり知る 

2007

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