2014年                                                              

1月
 「相和す」     

江ノ電に揺れてすぎゆく町なみのたつきの音の和してゆかしき

寺庭に娘と語らいて箸はこぶ精進懐石ほのか温もる

名に魅かれ小町通りに香もとむ「うすずみの桜」亡き父母に

つかの間に考妣想いてゆく道にむすめと交わすことば程好く

両頬がちいさくキュッとなりました涙こらえて笑わんとして

言うなれば休まるもなき日々にして「ファイト」を歌うこころの奥に

募りゆく想いは相応(ふさ)いし箱に詰めそろりと蓋を閉めて収めん

あらたしき年には新たな花に遇う笑みて立ちたるひともとごとの

 
2月
 「苦笑い」

CMにマイナス五歳と聞こえきて打ち消す頬のかたえ笑みおり

「とろとろの加水分解コラーゲン」「STAP細胞」耳にひびきぬ

おしろいをたたきて眉描き紅さすも消えぬゆううつ化身もかなわず

闘いは見えざる病魔 人心に巣食う悪魔の怖さほどには

うつくしきものみな悪魔と笑う君 なればわたしは悪魔になれぬ

ほどかざるままに撚れたる糸それも笑えばいつか仕合せとなる

ボリュームをおさえ顔寄すがんばれに百人分の活力もらう

ぽつぽつと梅のつぼみの綻びて淡きひかりの春への拍手
  
3月
 「想い」

サイレンに2時46分の黙禱すあの日の渦は解けぬまま在り

無音なる1分間を共有し三たび始まる震災復興

越えられぬ空間時間のありしこと今更に知る震災の画に

どんな日もどんな子たちとも目を合わすだいじょうぶだと言い続けつつ

大切な人を失うそのたびに命のバトン受く こころして

失いし人の想いの素粒子は生きいる人の胸に温もる

振り返りこどものように手を振りし人は離かりてマジックアワー

ぽっつりと佇むひとつ影を抱き今日の太陽しずかに去りぬ

4月
 「調和」

いただきに雪を残しし安達太良山薄桃色に笑まいはじめぬ

やわらかな花起こしの雨に目覚めたる桜前線歩む列島

壁にある版画の春の靴音のひびきてゆかしき4月のひかり

軽やかに靴音ひびかせあまたなる音符おどらす版画を壁に

なんとなく浮き立つ心で歩みゆく調和のとれた予定のあれば

ぽんぽんとはじけるように花は咲む季節のあしおと目に耳にきく

春色の景色の中に訃報聴く いつしか小暗き森にまよいぬ

変えられぬことをかかえて夜は更ける花散らしの雨かなしく聴きぬ


5月
 「胸深くおく」

北に待つ微笑みゆかしき人々を思いつつ握るハンドル軽く

いくたびも眺めし安達太良きょうの日は浮き立つこころのままにおさめぬ

震災禍まなび舎あとを目に留めぬ涙をためし児の思われて

大会の前夜にまみゆるうた友の健やかたたうる満面の笑み

つかの間を癒しくれたる寺庭に歴史を語る深き声音も

アララギの深き緑に出会いたり小鳥さえずる縁結ぶ寺

「ぬはり」にて再会かなわぬ人もあり胸深くおく大会のなか

うなづきて笑みておられる師を頼りまなびの糸を四方に放ちぬ

6月
 「風待月へ」

誰も待つことなき場所に春紫苑咲きて咲ききり風待月へ

背伸びして尽くし続けて5月尽もどりて立ちぬいつもの街へ

こころだけ丈夫で居ようと誓いしは遥か彼方の島多き町

晴れ渡る空に向かいて咲く花の白きわだちぬ幸月(さつき)送らん

恋しきを言に尽くさず春送る無常無情を知りたるゆえに

道の辺の花にもがもや待ち居れば時にめでられ時に擁かる

息長く吸うことさえもかなわぬ日ひとの恩知るいまさらにして

ひさびさに海沿いの町を走る眼に切り岸と見ゆ水平線は

7月
 「にじのさびしさ」

「透けてゆくにじはさびしい」ゆっくりと記憶も白くこぼれて消える

都合よい言葉でまとめる話などなかったことにした午前2時

無理せず居ろの言葉を聞きたくて弱々と打つメールの二字を

静かなる待合室に流れゆくさわだつ心隠しし時間

本当は待ちたいわけじゃない時間診察室から漏れくる匂い

泣いた子に大丈夫だよの魔法かけニッコリ笑うガンバレわたしも

ステージに八分音符の風立ちてさわさわさわと我に寄り来る

低音の響きの重さ心地よし高みを目指す子はアカペラに

腹落ちのよい声立ちの重なりをアカペラに聴く雨の湖畔に

たとえばとひと日を問うは「あなたへ」の思いを声にのせる術やも

8月
 「しあわせの連鎖」
四つ葉はね同じ根たどれば見つかるよ児は伝え来るしあわせの連鎖

放物線を描きしボールに空振りの幼のなみだ止め処あふるる

悔しきを話す幼の顔ぬぐい大きくなあれと心に収む

寄り添いてその涼しさを語り合うヘブンリーブルーの名を負う花の

花を愛で鳥を語りてしずかなる時を過ごしぬ道ゆずりつつ

傷つけぬために口閉じ傷つかぬために目と耳こなたに置きぬ

霊長類ヒト科の個性うべないつ「こんてむつすむん地」思う日々なる

日常にこころをひしぐものあまた笑えぬものの多くなりたり

9月
 「名残の花火」

柔軟なことばを添わせることはせず「あなたのために」歌う向日葵

くきやかに陽を追いて咲く日輪草ひびき合いしとおぼゆればこそ

バンザイの形に咲きしキソチドリ八月の空に解き放たれて

今日の日も通過点なり ゆるやかな河でありたき思いのままに

進みたき二人の道はおりおりに交わり並びくねり直りぬ

長き道歩み来たりてゆるやかに新しき扉さらにあけゆく

海や野の思い出語りゆく夏に名残の花火ちさく咲かす児

山に入りクワガタかぶと追いたると児の夏を聴く大き瞳に

10月
 「薬」

あめつちの言葉に置き換えきみに問う言葉に試す 不実と思う

たまゆらに笑みたる時は疾うにゆく色なき風に音なき雨に

ふたたびをまみゆるはなきひとなりと思わばやがて効く時間薬

虫の音の止みししじまのつかの間の闇さえ憂いの極みとなりぬ

手に余る歴史の重み守るべし星の無き夜に心欠けても

くらぶれば飲み忘れたる薬より忘れし歌の怖さかなしさ

陰影はわずかな灰色「笛を吹く少年」の赤と黒が降りくる

「ロシュホールの逃亡」にマネ思いつつ危うさのみを物語する

11月その①
 「せつな」

限りある命を切に想う日に菩薩の横顔もつ人と添う

あきらめず生きるせつなをつなぎつつ鼓動いただく手を握りしむ

どこまでを歩きゆけると背に問いぬ問えばせつなし並みて歩まん

ことさらに()しき姿に天を突くスカイツリーに流るるしじま

不自由な心も身をもこの杖を携え往かばたしかとならん

少しだけにじむ景色の夕まぐれ独り占めした時間が終わる

声立てて笑いあう(あい)消しゆかん紫煙くゆらす部屋を出てのち

振り向かば 向きて 向く 向く時 ここにわたしは右手でまたねを告ぐる

11月その②
 「里は秋」

里海に秋シラス漁のふたたびと浜風清しふたて広ぐる

守られし海に生き居る漁師らの掛け合いとよもす浜は大漁

色づきてしずかなしずかな里の秋ふと立ち浮かぶ子育ての日々

嬉しきも辛きも越えて今日があり子らは大地を踏みしめており

ふるさとの景色のありて守られてこそ歩めると子らは語りぬ

震災禍この語の消ゆる日の来るや原発を背に海を見つむる

12月その①
 「○○○○○」

見返りて阿弥陀如来はすくいたり振り向かれたきと思う心を

争いを棄てし阿修羅の合掌のお姿をこそ胸にとどめよ

左から聞こゆる嫉み濾過せんと半眼のまま双手を空へ

触れ合わず目線に交わす「○○○○○」つかまり立ちの危うさに耐う

だるまさんころんだままに起きぬのも生くるすべやも 北風荒るる

進めずの日には手にする亡師のふみは「思いのままにしたらええよ」と

背負いきることなど出来ぬと知りてなお野に立たたんとすさむ風受けて

逆風にこころ葉散るも朽ちしことならぬならぬと微かつぶやく

12月その②
 「さむ風」

「また来週」やんちゃ坊主の待つ室へ元気の呪文を胸ポケットに

転んでも失敗しても大丈夫!また立てばいい!が私の保育

ぱらぱらと音を聴きしか遊びの手休めておさなは高き樹に寄る

昨日までおしゃれな色をまとう樹の姿はなくて今朝のさむ風

「死ぬのか」と葉を落とす樹に触れながらつぶやく幼 もう冬が来る

さむ風とほっこり太陽受けて樹は冬に眠ると幼に伝う

葉を落と樹々に触れつつ幼らは「おやすみ」を言う「またね」を伝う

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