2015年


1月「ながめせしまに」
世の中にさびしみいくつただようとながめせしまに咲く福寿草
別れしはこの場所なりきいたずらにさびしみを置く東京駅に
怒りても泣きても笑みてもみなひと日いくたびつぶやくあしたはあした
排水のぽこぽこ音は詰まりかも幾日経てもやまぬ困苦の
かなしきと心に叫べど化粧して笑まいし我もまた今日の我
引き算の生き方かなしとつぶやきぬ足して来しゆえ引けると友は
 
 
 
2月「光」
一滴の光のしずくが眼に入りてやがてはわれの一部とならん 
眼球に虹彩という美しき名があると知る 我が眼いとしき
ひだり眼の視界の無き日も右の眼の力あること勇気となりぬ
見えぬ眼へ あきれるほどの楽観がわたしを包む 大丈夫よ!と
歪みたる半顔映す鏡面を何度もぬぐう よしよししつつ
片目なる日にも慣れたり一週間 おやすみなさい 明日は晴れよ
 
 
 
3月「ひとつの宇宙」
勉強は嫌いと叫ぶ児があれば楽しきを思う児の困り顔
学童の保育の室に混在の喜怒哀楽の芯になりたり
宿題の出来ぬを泣きてしばらくに児は「はらぺこ」と泣き笑いして
学童の保育の狭き室うちにダダーと広がる宇宙あかるき
空き箱がロボットになり基地になり児らの生み出す宇宙創生
感動の種をひろいし秋があり希望を咲かす春となりたり
  
  
  
4月「春のワルツ」
つかむには難き風ゆえ花を植え揺るるリズムにうたを詠わん
ここちよき風に花びら1・2・3春のワルツの軽やかにして
満面の笑みを見せたるチューリップゆうべにツンとすまして閉じぬ
庭先にホホジロ一羽チッチチチさてさて衣を一枚脱がん
デザートにいちごのあかきつやつやをもぐもぐと食む春だ春だと
足早に過ぐるうつつをうべなうに今ある春に今のさきわい
 
 
 
5月「よき空」
マジックとパントマイムと軽業と大道芸にわく町めぐる
道化師の頬に描かれしひとつぶの涙に聞きぬ咳き上ぐる声
少しだけ口角あげて上向けば五月のそらのあおさを得たり
拾いつつ歩むも捨てて走るのも一歩一歩がわたくしになる
庭先に小首かしげて鳴く鳥のながき爪みる孤独の縁に
やわらかな日ざしにピチュチュとおとないし鳥を目で追う空はよき空 
   
   
   
6月「思惟」
緑濃き芝生に夜は落ちてゆく足りないものは見えていたはず
激しさを出すもバランスとるもなくハリルの船出波にのまれて 
いつの日も期待はなべて叶わざる万物流転のことわりと見ぬ 
つづまりはどんな形になるのだろう青の街道ふたたびをゆく 
この青き勇者に委ねてゆきましょうワールドカップ長き道のり 
おおやけのことをかかえてすすむには思惟(しゆい)をいたすべしべくべきと
  
  
  
7月「人」
かなしみもよろこびもありて人となる三角四角やがては丸く
リセットの出来るすべなど無き日々を背負いて人は足早に往く
如何にせむ許さぬという選択をなみだに訴うおさなの視線 
許せざることもあるねと児に向かい人のこころの襞を想いぬ
幼らの立つ世界にも入り組みし関わりがある 生くるは(かた)
小一の遣り取りに倶に驚くを助演女優とちゃかすは小五
 
 
8月「準優勝」
年月の重みに向き合う夏大会 同窓生にまみゆる球場
すぐそこに切符が在るとう場面さえ甲子園への道は険しき
一球を悔やみ切れぬと泣く球児たくされしものはあまりに重く
逆風に応援の旗を支うるも叶わぬ想い見守る団員
この道に続きは必ず来るはずと準優勝の球児を称う
30年ぶりの決勝応援も甲子園への道は閉ざさる
 
 
 
9月「大切」
既視感とともに立ちたる丘の上に君の愛するものらを見つむ
かつて見し写し絵のなかのあこがれがふた手広げしわがうちに入る
見慣れたる女が見慣れぬ顔をしてウィンドウに居る 限られた時
とびきりのやさしき笑みを満面にたたえて頷く人の大切
ただ会いてただ笑い合いただ見つむ時計をはずしふたり つかの間
奥行きに青深き空さくら葉はみどりの淡き風となりゆく
 
 
 
 9月「夏の余韻」
 風を見るものはなけれど音に知る 夏の余韻はかすかとなりぬ
 秋されば行き過ぐ葉風のかなしみを一身に受く くねる畦道
 いだきたるひと夏の栄え頼りなくきみはわが名を想う日あるや
 道の辺に燻るむらさき思い草ゆるる尾花に寄する愛しみ
 風となり花を揺らして届けたき言の葉ひとつしずかの丘へ
 邂逅に音立て吹きくる海風におきどころなき身を揺すらるる
 
 
 
 9月「のびのび」
兄さんの顔して昨日の出来事を話すおさなの鼻は得意げ
「『カルスピが好き』なんてオレの弟はかわいいんだぜ」の「オレ」もかわいい
イケてるとヤバいと粋がる小一がオレのおやつにビスコほおばる
粋らしく振る舞うおさなのドヤ顔のすぐあとに浮くえくぼはひとつ
かろやかにかまえて目をみて頷きて昨日の悔いは今日の糧とす
濃淡の墨色の体グイと上げ動ずるなよというカブトムシ
 
 
 
10月「幾山越え来」
朝の秋知りつつばっさり髪を切るコキアは丘をおおい色づく
みはらしの丘に一面あかあかとコキアの風は潮をはらみぬ
潮風の満ち満つる丘コスモスとコキアの秋のいとし盛りを
通い路にちいさき蝶のかたちなる萩のさびしみ暮れはやき夕
息つけず時代の空気も吸えぬほど感度を落とし靄るアンテナ
うまれたる日よりはかなく生ける身のさだめを負いて幾山越え来
こころにはさけびたきこと多くして言わぬが花の花にはなれず
生きましょう出会いたるとう幸いの支えを胸の奥処に点し
 
 
 
11月「厄介もっかい」
わが裡を知らで揺さぶる言の葉を左の胸におさむる今日も
とし長けて心穏しき日々なれと願いておるも波風立ちぬ
記憶なる厄介もっかい払うすべ一つだになし胸ふさがりぬ
消えたると想いし焔ふたたびを盛ると見るに得堪えざりけり
あやさるるままに笑いて見ぬふりの日々もまたよし守るとうこと
沈黙の是非可否当否寄せ返す息苦しさは危険の水位
 
 
12月「春のさきがけ」
近海のレジームシフトの収穫と美味なるサワラの塩焼きに知る 
資源維持語る漁師は脱サラの新米なると顔ほころばす 
やさしさと厳しさうらはらゴツゴツの石畳みゆく片笑みながら 
はしなくも閉ざさる命のはかなさと頭に知るも半解なるや 
出会いたる幸い失う刹那にはきみはわが名を想うや呼ぶや 
言い訳をせぬこと褒め呉るる若人に子は嫁ぐとう春のさきがけ 
 
 
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